妊婦がドラマの監督してました。
ふくだももこと申します。
私は普段、映画監督と小説を書いて生きています。
映画だけでなく、ドラマの監督を依頼されることもあります。
監督が妊婦って、よく考えたら世界的に見てもあまり例のないことだと思うので、
そこに至るまでの経緯と、実際にどうだったかを書き留めておきます。
まずはじめに、私の体感としては、ある時期までは「妊婦も余裕で監督できるわ〜!」です。
もちろん人によります。
ただ、周りがこういう配慮や動きをしてくれたから快適にできたよ!という
ひとつの例として読んでもらえればうれしいです。
今回、ドラマのお話を頂いたのはテレビ東京の祖父江プロデューサーで、緊急事態宣言中のことでした。
劇団雌猫さんのエッセイ集『だから私はメイクする』をもとにした、
シバタヒカリ先生作のコミックをドラマにするので、監督しませんか?というオファーでした。
原作となるエッセイと漫画を読んで、キャラクターひとりひとりのメイクへの向き合い方、
なにより自分を全肯定する!わたし最高!というポジティブなテーマにハートを射抜かれました。
また脚本が、男の子のプリキュアが登場したことで伝説となった「HUGっと!プリキュア」の坪田文さんだったことも、オファーを受けた決め手でした。
話が少しそれますが、私が作品選びにおいて大切にしていることは、
原作ものであれば“原作や作者のテーマや思想に乗れること”
または“仕事をしてみたい人がスタッフ・キャストにいるか”です。
なので、その2つが揃っていることに胸が高鳴りました。
しかし、オファーを頂いた段階で、私は妊娠4ヵ月の妊婦でした。
ただ、つわりも終わったし、見た目はお腹もでていないし、妊娠している実感があまりなかった私は「ま〜大丈夫っすよ!余裕余裕!」と、妊婦であることをめちゃくちゃ軽く捉えて返答しました。
しかし実際、クランクアップ(撮影終了)は8月の中旬予定。
つまり妊娠7ヵ月半頃まで撮影が行われるため、その時身体にどんな変化があるかは、まったく予測がついていませんでした。
プロデューサーの祖父江さんは妊娠を喜んでくれたと同時に、冷静に「一度持ち帰らせてください」と言って、オファーは一旦保留になりました。
そのあとすぐ祖父江さんは、映像業界で出産経験のある方に話を聞き、その経験談からどのくらいまでなら現場に立てるのかを推測し、社内会議にかけ、妊婦である私が監督できるよう、偉い人たちを説得してくれました。
「妊娠や出産、育児によって女性が仕事を制限される環境をどうにかしたい」と
祖父江さんにお話したとき、「私もそう思います!」と言ってくださったことが、
強く印象に残っています。
また、あとから聞いたのですが、チーフプロデューサーの山鹿さん(祖父江さんより偉い人)が「やる気のある監督だし、やってもらおう」とおっしゃってくださったのも、大きかったそうです。
協議の結果、
・私が担当するのは全6話のうち1話と最終話の2話分
・もし身体に異変があればすぐに監督を交代できるようにすること
以上を条件に、祖父江さんの尽力のおかげで正式に私はメイン監督に決まりました。
ヤッター!
こうして「だから私はメイクする」は原作、プロデューサー、脚本家、監督4人、主演、チーフ助監督、カメラマンが全員女性、そしてメイン監督が妊婦という、きっと前例のないドラマの撮影がはじまりました。
7〜8月の撮影現場では、主演の神崎恵さんや、出産経験のあるメイクさんに出産、育児のお話を聞いたりしてました。
そして、問題なく撮影は終わり、妊娠9ヵ月の9月中旬に編集・音の仕上げが終わり、私の担当回は完成しました。
今回、妊婦として監督ができた要因をまとめてみます。
私ができたからみんなができるわけではないし、妊娠中の症状は個人差があるのであくまで私の経験として、です。
・私の身体とおなかの子が元気だった!
いわずもがな1番重要です。
こればっかりは本当に人によるので「こんなこと言ってる妊婦がいた」と、
私を例にあげて他の妊婦さんを責めるようなことは絶対しないでくださいね。
・”つわり”がドラマ撮影と被らなかった。
正直、妊娠中一番つらいのって初期のつわりと出産間近(臨月)だと思います。
私もつわりで無気力になり、布団から起き上がれず5キロほど痩せました。
(お酒やめたのも痩せた要因として大きいけどね…)
職場への報告は安定期に入ってから!とか言いますが、それ以前がめちゃくちゃつらいので、私は妊娠が発覚したらすぐ周りに言いました。
(「なんでお酒飲まないの?」って絶対聞かれるのが面倒だったのもあるけどね…)
ちょうど演劇「夜だけがともだち」の演出をやっていた時期で、スタッフ・キャストがすごく気を遣って優しく接してくれたので、本当に助かりました。
頼りになるスタッフ・キャストがいれば演出家がいなくても舞台は成り立つ!
・リモート最高!
コロナの影響で打ち合わせがほとんどリモートになり、家から参加できたのは本当に最高でした。今後の働き方の価値観も変わりました。
・毎日出勤するわけじゃない
映像制作は分業制で、準備は助監督や制作部のみなさんが主体となって進めていきます。
監督は、毎日作品のこと考えますが、準備中はわりと確認作業が多く、メールや電話でのやりとりがメインなので会社勤めのように毎日出勤、という負担がありません。
撮影も毎日あるわけじゃなかったので、適度に体を休めながら働いていました。
・監督が交代するから負担が少ない
映画の場合、監督は1人です。
しかしドラマは、ほとんどの場合監督が何人かいます。
(クレジットをよく見ると、話によって監督(演出)の名前が違います)
1日の撮影の中で監督も入れ替わるため、朝から晩まで出ずっぱり…ということがほとんどなかったです。
ちなみにドラマにはだいたい監督が2、3人いますが今回は全6話で4人!多い!
これに関しては俳優やロケ地のスケジュールも関係してきますが、うまいことスケジュールを組んでくれたチーフ助監督松嵜さんのおかげです!
・担当する話数が少ない
私が担当するのが2話分だけで、予算や内容の都合的にもロケ地が少なく、負担が少なかった。
初めてドラマを監督した時、10話中6話を担当し、めちゃくちゃきつかったです…。
メインのロケ地が西武池袋の化粧品フロアと、それぞれの人物の部屋の中でした。
猛暑の中、外のロケがほとんどなかったのは全スタッフ・キャストにとって本当に良いことだと思いました。
・監督だから
監督は、現場に台本とペンさえあればできます。
また、今回は撮影場所が狭く、監督はモニターの前で座っていることが多かったので、体力面の負担が少なかった。
もし私が常に現場を走り回る助監督、または撮影部、照明部、美術部、録音部といった、重いものを持ち運ばなければならない部署だったら、話は変わってくると思います。
カメラマンの平見さんは「カメラマンになれば助手が機材を持ってくれるからいけるかも」と言っていました。
部署のトップになれば妊婦であっても大丈夫かな?
でも、機材が倒れてきたりするリスクもあるので、危険なことには変わりないかも…?
実は“監督だから”妊婦でも問題なく働けたのかもしれません。
・スタッフの連携
チーフ助監督の松嵜さんがとても優秀な方で、カメラマンの平見さんとの相性も良く、現場の指示をほぼすべて任せられたことはとても助かりました。
私は現場から離れたモニターの前に座って、トランシーバーで松嵜さんに演出や気になることを伝えれば、現場を回してくれました。
この連携がとれないと、逐一現場に行ってモニター前に戻って…ということをしなければならないので、優秀なスタッフの存在は精神的、身体的な負担をものすごく軽くしてくれます。
・気遣い
スタッフや俳優が「体調どうですか?」と何かと気遣ってくれました。
プロデューサーの祖父江さんは会うたびに聞いてくれたし、
主演の神崎恵さんは3人のお子さんを持つ母で、とても優しかったです。
神崎さんはひとつひとつの所作や表情が美しく、内面も本当に素晴らしい方でした。
これはまた別の機会に書きたいです。
・両親のサポート
これは本当に大きい。特に母は偉大!!!
身体、精神面でのストレスがほぼ0だったのは周りのサポートあってこそです。
つわりも、実家に戻って母の料理を前にしたら治りました。おかん〜!
私はすぐ人に頼るし、しんどい時はすぐ「しんどい助けて!」と言ってしまう人間なので
家でも仕事場でも困ったことはすぐに両親やスタッフに相談していました。
案外これが一番大切かもしれない。
悩みや困りごとは周りに共有して、環境を整えてもらう。
私が尊敬する方に妊娠を報告したとき、
「妊娠中、産後は人生で一番他人に甘えていい時期やで!」と言ってくださいました。
本当にその通りだと思います。
生きてたら迷惑なんていっぱいかけるんやから、甘えて、迷惑かけましょう。
周りの方々も、甘えさせてください。
何もしてなく見えても、体内で命つくってるんやから。
一人で悩む妊婦さんや育児中の方が、少しでも減りますようにと願っています。
以上が、私が妊婦でもドラマの監督をできた理由です。
上述したように母体と胎児の体力が1番重要ですが、上記のような撮影環境だったため難なく乗り切れました。
予算、スケジュール的には、これまでやってきた現場の中でもかなり過酷でした。
ロケ地の関係でお店の閉店後21時からしか撮影できず、21時〜翌朝5時まで撮影、なんて日も何日かありました。
一番きつかったのは、早朝まで撮影した日が監督した映画「君が世界のはじまり」の公開日だったので、
すぐにオンライン舞台挨拶にでなければならず、睡眠時間がなかったことです笑
映画の宣伝プロデューサーも女性でしたが、これでもか!というくらい気遣ってくれていました。
しかし、私でもしんどかったんだから、忙しい俳優は本当に大変だと思います。
同時期に作品をいくつもかけもちしたり、宣伝活動も異常に稼働しなければならない現状はどうにかしないといけないと思います。
そんな感じで、もっとスケジュールに余裕があればな〜!と思うことも多々ありましたが、やり切れたのは、単純に現場が楽しくて大好きなのと、私が監督というポジションだったことが要素として大きいと思います。
他の監督が撮影する日は休みだったし、撮影照明録音美術などの技術部のように重いものを持ったりしない。
現場には台本とペンだけ持っていけばよく、前述した通り現場の仕切りや役者への演出などはモニターの前にいながら、トランシーバーを使って助監督に伝えれば対応してくれました。
私がうっかり走ったりしようもんなら「走ったらダメです!」と声をかけてくれたり、お腹が張って横になっていても「ゆっくりしてください」と言ってくれたりして、心の負担も全然なかったです。
撮影現場に妊婦がいるなんてことがまずないし、私も周りのスタッフも未知なことだらけなので、すごく気を遣ってくれていました。
あと話が逸れるかもしれませんが、メインスタッフ、キャストがほぼ女性だったので、現場の空気がすごく良かった!
怒鳴る人も高圧的な人もいなくて、減ったとはいえパワハラやセクハラが多い業界なので、その面ではストレスフリーでした。
現場で唯一の男性メインスタッフのベテラン照明部さんも、ご家族に妊娠中の話を聞いて「よくわからないけど、とにかく大変らしい」という認識のもと、見守ってくれていました笑
そんなこんなで、すべての作業が終わった翌日に、身体が安心したのか急におなかが大きくなった気がします。この調子でボーンと元気な子を産むぞ〜。
そして最後に、やっぱり妊婦って大変です。
体内に心臓が2つあって、人間とはいえ未知の物体が存在してるんですから。
体は重いし肺が大きくなった子宮に圧迫されて息がきれるし動機はするし腰は痛いし、ちょっとのことで尿漏れするし、胎児に内臓蹴られるし、お腹がうにょうにょしてるし…トラブルばっかり。
現場でみんなが気遣ってくれたことも嬉しかったですし、
余談ですが電車で席を譲ってくれたおじさんおばさんサラリーマン高校生のみなさんには本当に助かりました。ありがとう!
ってか席譲ってもらうのマジでうれしい!!!
クソでかい声で「ありがとう〜!」って言ってしまう!
優先席には本当に座りたい人もいるので、今後自分が元気なときは、空いてても座らないようにしようと心に決めました。
スマホ見てると下ばかりみて、目の前の人がどんな状態かわからないから、視野を広く持つのも大切!!
迷ったら譲ろう!目があってからスマホ見られるのマジへこむ!
間違ってても断られてもいいじゃん!
できれば「次の駅で降りるから、それまで座ってよ〜」よりも、気づいたらすぐ譲ってくれたらめちゃくちゃうれしい。
話が逸れましたが、妊婦がドラマの監督してました。は以上です。
10/7からスタートする「だから私はメイクする」(テレビ東京で放送、パラビで配信)は
原作同様、自己肯定感が爆上がりドラマとなっております。
色んなブランドのコスメがこれでもか!というくらい登場するので、絵面だけでもテンション上がります。
各話のゲストもお楽しみに♡
ぜひ、みてね〜!
ドラマ「コタキ兄弟の四苦八苦」3話が最高すぎる。
コタキ兄弟の四苦八苦が毎話素晴らしいのは前提として、第3話は本当にすごかった。
暇なレンタルおじさん兄弟のもとにやってきた大学生男子が、恋人関係ではない好きな女の子からデートに誘われ(家で「耳をすませば」が見たいと言われた)、兄は家など早い!水族館派、弟はいちゃいちゃしたいし誘って来てんだから家だろ!派。
ここから兄弟のプレゼンによって一見ポップだが話の根底では「性的関係の合意について」の議論が交わされる。
合意についての曖昧さ、価値観の違いが浮き彫りになり、実は誠実にみえた水族館派の兄の方が合意について未熟で無知、弟は「全部相手に確認すればいい、相手が家に誘っても酒を飲んでもそれは合意ではない」と真っ当な意見を返す。
そこからモテ・モテない論に発展し弟が兄に「キモいんだよ!だから兄貴はモテない」と言ったのを聞いて男の子が「モテるのがそんなに偉いんですか?キモいとか言われるくらいなら僕は一生モテなくていい、デートもやめる」と言い出す。
予期せぬ展開に最後はずっと合いの手を入れていた喫茶店の店員さっちゃんが兄弟を一喝し「デートをやめるのはちがう、君をデートに誘った相手のことを考えて」と諭す。
主語(モテる・モテないどっちが偉いか等)が大きくなればなるほど匿名の意見(ネットや他人)に翻弄され、一番向き合うべき目の前の相手が見えなくなってしまっている危険性があることをやさしく指摘。
野木さんの脚本はよくネットでの匿名の発言がもつ危険性をドラマに落とし込むんだけど、今回はその匿名性の部分を、男の子にとって数分前に会ったばかりのレンタルおじさんという立場の主人公2人に担わせたのがすごい。
そして古舘さんと滝藤さんのお芝居が本当に上手い。
あと「性的合意」についての話は野木さんオリジナル脚本の超名作ドラマ「アンナチュラル」(主題歌が「Lemon」のあれだよ!!!)でも描かれています。
喫茶店を出る間際、男の子は過去に女の子から「キモい」と言われた傷が今も癒えずにいると告白。そしてラストに兄が職を追われた理由がネットに書き込まれた誹謗中傷だったことが判明。
軽々しく発している言葉が、受けた側には一生ついてまわる呪いになることを表している。
おい聞いてるか!言う側も言われる側も、私やあんたのことです!!!!
そしてこの二人のつながりがさすが!!!野木亜紀子先生!!!
あと脚本としてすごすぎる…と思ったのが兄に対する確執を、弟は口論の最中、感情が爆発したところで言うのかと思いきやグッとこらえて言わないところ。
脚本で“楽”をしようとするとき、感情の爆破ポイントで話の論点を変えてでも相手を黙らす為の核心につくことがあるけど、野木先生は絶対にしませーーーん!!!弟子にしてください!!!!!!!
あと野木さん脚本は時代を先取ることがある(脚本に書いたことが放送後に現実社会でも起こる)のですが今回は「耳をすませば」実写化発表のタイミングとドラマがドンピシャ。
劇中でアニメ版「耳をすませば」を連呼、高橋一生!中学生の高橋一生がー!と言いまくる最高の展開でした。
最後にフェチを晒すと一番グッときたカットはさっちゃんと男の子が握手しようとする手のカットの背景に常連のモブおじさんをしっかり入れ込んでいるところです!!!(あのカットだけ先にとったの!?おじさんずっといたの!?お疲れ様です!っていう裏側的な見方)
このドラマは山下敦弘監督作品なんだよ〜〜〜〜!!!!!
※えらそうに色々書きましたが一巡しか見れていないし、あくまで私個人の感想なので「オラ!こう見ろ!」って言ってるんじゃないから自分だけの「コタキ兄弟の四苦八苦」を楽しんでね♡
今なら3話がTVerで見れるよ!
来週も「コタキ兄弟の四苦八苦」がたのしみだーー!!!